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幻氷が分光で虹色に見える理由

By 17:52:00

カラフルな幻氷
久しぶりにこちらのブログを書きます。
本州からは桜満開の便りが届き、2018年の幻氷シーズンも終わりが近くなってきました。(3/29現在)

今年は昨年に引き続き、比較的、斜里周辺に接岸した流氷が多く、たくさん幻氷の報告が入っています。

沖合に残っている流氷量は昨年より多いので、まだしばらく見られる可能性があるのではと思っています。



目次




3月28日の幻氷がNHKほっとニュース北海道などで放送

とくに、2018年3月28日、ウトロの自然ガイド会社、知床ネイチャーオフィス 藤川さんが撮影された幻氷の動画は見事でした。


静止画はこちら
(ブログ削除されたようなのでリンクを消しました)

暖かくなった時期の上位蜃気楼は、空気全体が霞んでクリアに撮れないことが多いのですが、稀に明瞭に見える場合があり、数少ないチャンスをモノにされました。

私もこういう幻氷の動画が撮りたかったのですが、斜里町で撮影するようになって数年、だんだん動画撮影スキルが上がったものの、後半はあまり大きな幻氷に出会えず、いい動画は残せず仕舞いでした。

本当に貴重な映像を公開していただき、私たちも楽しませてもらい感謝・感動しています!

さて、この素晴らしい動画は、藤川さんや報道側の素早い対応もあって、当日中にNHKさんで流していただくことができました。

今回の現象に関する私のコメントも紹介していただいたのですが、なにぶん、短いニュース枠の中での説明のため、あまり要領を得ない原稿が最終的に放送されてしまいました。

そもそも私の説明力不足もあるので「マスコミは正しい放送をしろ!」とか言うつもりは毛頭ありません。
大勢の方が真剣に取り組まれる中で、伝言ゲームも重なって元々の意図とは違う文言が流れてしまうことはしょうがないと思っています。

また、幻氷や知床の蜃気楼については、まずは皆さんに現象の存在を知ってもらうことが大事、というのが私の考え方で、ふだんあまり細かいことは言いません。

ただ、観察される頻度が低い現象なだけに、現時点で私が考えていること、知っていることをどこかに残しておきたく思い(自分で忘れる可能性も・・・)、補足説明をいたします。


幻氷自体は毎年見られます

まず、NHKニュースサイトに掲載された文章の抜粋と、放送されたニュースを文字起こしたものを転載させていただきます。
(ニュースは録画したものを見ながら文字起こししたので正確だと思います)

1)NHK NEWS WEB
知床に「幻氷」出現 記録的暖かさで「しんきろう」の一種
3月28日 16時01分

<部分引用>
「幻氷」は、冷たい空気の上に暖かい空気が流れ込み、光が屈折することによって見られる「しんきろう」の一種です。
オホーツク海側の沿岸では、4月中旬から下旬にかけての気温が高く、風が弱い日に見られますが、28日のようにさまざまな色に輝く様子が見られるのは非常に珍しいということです。
斜里町で幻氷の観測を続けている「知床蜃気楼(しんきろう)・幻氷研究会」の佐藤トモ子代表は、「はっきりと色のついた幻氷は数年に1度しか見ることのできない現象だ。気温が高くなったことなどが原因ではないか」と話しています。

2)3月28日 NHK ほっとニュース北海道
「ほっとスクープ」で河野キャスターが述べた一部を文字起こし

斜里町で観測を続けている知床蜃気楼・幻氷研究会の佐藤トモ子代表によりますとこの色のついた幻氷、数年に一度しか見ることのできない現象で、気温の上昇など気象の条件が整ったために現れたのではということでした。

3)3月28日 NHK ニュースチェック11
宮崎予報士が述べた一部を文字起こし

こちらはですね、流氷が水平線の上に浮かび上がって見える幻氷という現象なんです。
数年に一度しか見ることができない珍しい現象だそうです。
これは地上と上空の気温差によって光が屈折してできる蜃気楼の一種なんです。


3)には、限りなく「不正解」に近い文章が混入してしまったので、最初に訂正します。北海道内のニュースでは、二日連続で藤川さんの撮影した幻氷が取り上げられており、28日は幻氷に複数の色が付いた・・・という点に注目して紹介されました。

一方、ニュースチェック11では、同じ28日の動画が使われたものの、幻氷に色がついていることは説明されず、かつ「幻氷という現象→数年に一度しか見ることができない」とだけ紹介されてしまいました。

先に流れた1)と2)と比較してもらえればわかるのですが、数年に一度、なのは「ハッキリとさまざまな色が付いた」幻氷です。

幻氷自体は、ほぼ毎年見られている、と考えてください。

(伝言ゲームで、だんだん文章が短くなって必要な情報まで抜け落ちて、最後は誤った文脈になって報道されてしまったことが良くわかる、興味深い例と言えます・・・😅)

・・・幻氷については、流氷が程よく陸地から見える位置(或いは水平線の向こうと考えられる沖合数十キロの範囲)に一定以下の量が残り、かつ気温が上がった時に見られる上位蜃気楼に限定して私たちは判断しています。

「海明け」のころの風物詩、春の風物詩としての認知度を重視するため、このような整理をしているのです。

確かに、色々な条件が重なった場合に限られる現象なので、蜃気楼の中でも特に珍しいと言えますが、私たちが観察をはじめた2013年以降は、回数の年変動が大きいものの、毎年確認しています


観察された回数については、「蜃気楼のすべて!(草思社)」や日本蜃気楼協議会での発表にも記載していますので参考にしてください。

最近整理、解明されてきた、このような幻氷の基本情報も、もっと私たちがPRしていきたいところですね。

補足:幻氷の出現時期について


桜色、ピンク色の幻氷もある

本題である「さまざまな色が付いた幻氷」の話に入りたいのですが、その前に、幻氷に色が付くケースとして、他に「ピンク色」「桜色」に染まる場合があります。

夕方でもないのに、蜃気楼の虚像である幻氷の部分だけが、ピンク色に輝き、非常に幻想的です。

これは比較的、毎年のように見られていますし、藤川さんが前日27日に撮られた動画も、ピンク色が強くなっています。


当ブログに掲載されている幻氷も、良く見ていただければピンク色のものが多いのがわかると思います。

ピンク色のケースについては、今回話題にするカラフルな幻氷とは違った原理で色づいているのでは・・・と言われています。

蜃気楼の場合、通常より光が曲がって目に届くので、蜃気楼になっていない部分に比べて、長い距離を光が通ることになります。

長い距離を光が進む間、空気中の細かいチリなどにぶつかって、青色など波長の短い光は散乱されますが、波長の長い赤色の光だけが残るのです。

夕焼けが同様の原理であるという話は聞いたことがあるかと思いますが、それと同様の理由ではないか・・・というわけです。

が、まだ幻氷での例について、実際に現地で研究をしたり、シミュレーションや実験で確かめた人がいる、という話は聞いていません

少なくとも、ピンクに見えるときと、そうでないときの何らかの条件の違いを説明できないと、確定はできないと私は思っていますが、議論は進んでいません。

追記:別日のネイチャーオフィスさんの動画へもリンクしておきます。



2014年にも現れたカラフルな幻氷

やっと「さまざまな色が付いた幻氷」の話に入ります。
※便宜的にタイトル等では「虹色」と表現していますが、7色見えているわけではありません。

そもそも、「数年に一度」と私が言った根拠なのですが。

知床の蜃気楼、幻氷を気にするようになった2013年以降、斜里の観察仲間が撮影した写真や色々な方がネットで発信された写真は、かなりチェックできていると思っています。

その中で、今回藤川さんが撮影されたのと同じように、青や緑、赤系など複数の色が「広範囲に」ついた幻氷は、記憶にある限り2014年4月29日の例以来の確認でした。

(幻氷の写真をよーく見ると、端っこのほうが部分的に、本来の色と違って色づいているように見えることは他にもありましたが、それは除外して考えました。)

その2014年4月の写真が、この記事の一番上に掲載した「カラフルな幻氷」です。

この写真は「蜃気楼のすべて!」にも採用されました。

また、この日は、WMOのクラウド・アトラスに採用された「巡視船と幻氷」が観測された日でもあり、昼前から夕方にかけて、超大規模な幻氷が長時間見られた、私たちの観測史上最高の日でした。

この日は、観察仲間以外の方も、網走からウトロ、さらには羅臼の海岸でも幻氷の写真をたくさん撮影しています。中には同じように、複数の色が入った写真もありました。

このときの写真を日本蜃気楼協議会の先輩方に見ていただいて「分光していますね」とコメントをいただきました。

あとで詳しく説明しますが、本来光が持っている色々な色が、屈折率に差がある物質を通ることによって波長の違う様々な色に分かれて目に見えることを分光と言います(私が理解している範囲を自分の文章で書いたので間違っていたらごめんなさい)。

この件についても、桜色の幻氷と同じで、だれも現地で検証も、実験もしていませんが、おおむね分光にまつわるような現象が起こっているのだろう、という予想はされています。


記録的な気温の上昇が直接の原因ではない

予想はされているものの、確定はしていないので、NHKの取材担当者さんへの説明はその旨「分光と思われているが確定はしていない」と説明しました。

もちろん分光の説明はさせていただき、前回に出たケースの状況などもご説明しました。

が、屈折率などの言葉はやはりわかりにくいのでカットされて、当初、書いていただいて私が聞いた原稿は、上述した1)

気温が高くなったことなどが原因ではないか

に近いものでした。

過去にも気温が上がった4月末に出ていて、まあ、直接的な分光の原因ではないけど大きな幻氷が出たときに見えるので、間接的だけど概ね間違ってはいないかな、とOKの判断をしました。

しかし、2)で夕方のニュースに出たときには

気温の上昇など気象の条件が整ったために現れたのでは

と若干違ったニュアンスになっています。

「気象の条件」・・・「整った」・・・という言葉が加わってより明示的になっています。

当日はウトロで3月史上最高の高温が観測され、そのニュースが大きかったことも相まって、なんだか3月なのに記録的なほど気温が上がったこと=色づいた幻氷が出た直接の原因、という印象を受ける流れの放送になってしまいました・・・

そもそも、私が分光について、もっとわかりやすく短い言葉で、担当の取材者さんに伝えられていれば、このような変な話にはならなかったのではと、後悔しています。

もし再びチャンスをもらえるなら

通常の蜃気楼よりさらに複雑な光の屈折が起きたのでは

とさせていただきたいですね!

(まあ、家族にも感想を聞いたところ、そんなに違和感はなかったようなので、蜃気楼に詳しい人以外には、些細なことかもしれません!)


・・・ちなみに、実は、私の「巡視船と幻氷」の写真と「カラフルな幻氷」の写真は、ほぼ同時刻に同じ場所から撮影したものなのです。

巡視船のほうは、北西の方向に現れた蜃気楼で、ほとんど真っ白ですが、なぜか北東の方向に現れた蜃気楼にだけ、さまざまな色がついていたのです。

今回藤川さんが観察されたときも、撮影方向によって色がついていたり、ついていなかったりしたそうなので、今回の例が解明につながるヒントの一つになるかもしれません。

今後の研究にご期待ください!


似たような分光が見られる大気光学現象

分光についてもう少し詳しく見ていきます。

蜃気楼は虹などと同じ「大気光学現象」の一種で、もちろん虹も分光現象と言えます。

虹は、雨粒を光がとおることによって分光が起きます。

ほかに、分光によるものとされる珍しい現象の中で有名なのが「グリーンフラッシュ」です。

その仲間には「パープルフラッシュ」や「ブルーフラッシュ」もあります。

〇〇フラッシュ系の現象は、縦方向に空気の密度がわずかに違うことで、本来、1色に見える光の色が、分光して見えたものと言えます。

さらに、空の探検家として有名な気象予報士の写真家、武田康男先生は、南極でグリーンやブルーフラッシュを撮影された際、横方向にも像が映っているような極めて珍しい写真を撮影されています。

蜃気楼のすべて!」P23に掲載

蜃気楼は、空気の密度の違いにより光が曲がる現象なので、分光現象が同時に起こるのもうなずけます。


新しいアイデア募集中

しかし・・・

もう一度、一番上の2014年の写真や、藤川さんの映像を見てほしいのですが。

グリーンフラッシュの写真がピンポイントなのに対して、結構広範囲に、色が分かれて見えますよね?

いずれにしろ、「空気の密度状態が複雑だった」・・・と単純化して表現することはできますが、何らかの特殊な背景があるのでは・・・と個人的には考えています。

2018.4.17 回折に関わる記述を削除*>

もしや、流氷が何らかの規則を持った配置で浮かんでいるときに、蜃気楼によって伸びて見えることで、独特の効果が現れるのでは?という推理です。

★2018.4.17 ↓リンク先追加 「パターン的」という表現がイマイチ他の方に伝わりにくかったため、別のページを作りました。「一つ一つの色の色づきの範囲が狭くかつ比較的広範囲に色が現れている」という点が私が今回気にしているポイントでした。

他の地区での分光の例と合わせてご紹介します。

補足:上位蜃気楼による分光(色分散)事例

また、このようなパターン的な虹色は、猪苗代湖でも観察されたことがあります。

蜃気楼のすべて!」をお持ちの方は、P55をご覧ください。

気象学の分野では、大気光学現象について真剣に語られる場が少ないです。

光学については、レンズ設計などをされている機械工学の分野の皆さんのほうがよりお詳しいのかもしれません。

もし、今回の「虹色の幻氷」の映像を見て、「あの現象に近いのでは?!」というアイデアをお持ちの方がおられましたら、ぜひご一報ください。


補足と変更履歴

以上長くなりました。

今回の幻氷発生については、「海にどれくらい流氷が残っているときが幻氷なのか」かという定義的な面でも質問がありました。

そのあたりについても改めてまとめたいと思っています。

(2018/3/29 第一稿 記す 佐藤トモ子)
(2018/4/3 幻氷の出現時期について追記)
(2018/4/17 「アイデア募集」の章で、回折にかかわる記述を削除*日本蜃気楼協議会内での議論で、回折や構造色との関係は否定的な意見が多く、私も良く理解できていない状態で記述してしまったため、誤解を生まない様、削除しました)
(2018/4/17 その2 全体がが長くなったので、目次を追加し、4/3に追記した「出現時期について」を別ページにしました)
(2020/4/2 藤川さんの動画についてリンク切れを修正しました)


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